Session 03

「リアル空間とサイバー空間の共生による未来社会の実現」
セッションレポート

サイバー空間の表現や制御はどこまで発展し、リアル空間とどう交錯していくのか――。その空間において、自身の分身として自律性を備えた人のデジタルツインが生まれたとき、どのように活動し社会を構築していくのだろうか――。

セッション3では、「リアル空間とサイバー空間の共生による未来社会の実現」と題し、日本電信電話株式会社(NTT)人間情報研究所 所長の木下真吾氏と、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役社長 CEO兼CCOの諸石治之が語ります。

NTTとIMAGICA GROUPとのこれまでの取り組み

まずは諸石より両社の取り組みについて触れながら、セッションがスタートしました。スクリーンには、さまざまな事例の映像が投影されています。

諸石:
「NTTさんとIMAGICA GROUPは、12Kなどを活用した高精細な横長の臨場感のあるビューイングや、新しいXR演出の表現など、これまでさまざまな取り組みをしてまいりました。今回は、NTTさんの取り組み未来に向けて、『リアル空間とサイバー空間の共生による新しい未来社会の実現』といったタイトルでお話をいただければと思います」

木下氏:
「まずNTT人間情報研究所の紹介をしますね。人間情報研究所の取り組みは、『ヒューマニティを取り戻すテクノロジーの研究開発』に重きが置かれています。この実現のためのアプローチとして、『人間中心』というところを原則に、あらゆる人の機能をデジタル化してみることに挑戦しています。
僕らの研究所は、人間を中心に考えながら、人の機能のデジタル化を心がけています。そこでまず、人間はどんな仕組みで動いているかをロジックで説明します」

人間の仕組みを図に落としてわかりやすく説明をする木下氏

木下氏:
「もともと人間は、頭の中にさまざまな情報が入ってきます。これを知覚して考え、実際の判断や行動に移す流れの中で、最終的に話して書くというアウトプットがあります。
この『知覚思考行動』は、育ってきた記憶や感性から影響を受けていますし、さらに自分の体や環境など、あらゆる物事から作用を受けているものです。ですから、同じ状況であっても一人ひとり知覚思考行動は変わっていきます。
この、身体、知覚、思考、行動、感性、環境みたいなものを、まずはバラバラでもいいのでデジタル化をしてみよう、というのが僕らの研究所のアプローチです。
こういった人間の要素を見るときに、リアルの世界から見たときのその人と、いわゆるWEB会議などのオンラインの世界から見たときの人は全く異なります。メタバースというサイバー空間から見たときは、さらにキャラクターが変わります。複雑な角度から見ていかないと、人を理解することができないとわかりました」

メタバースをどのように捉えているか

続いて話題は「メタバース」へ。メタバースは今後どう進化していくか、木下氏自身が語りました。

木下氏:
「僕らはヒューマニティを軸に、多様な人や社会のウェルビーイングを拡張する手段としてメタバースを作っていきたいし、使っていきたいと思っています。
例えば、20年前に流行ったメタバース「Second Life(セカンドライフ)」は、ニューロダイバーシティと言われている方々が集まり、コミュニケーションをとる場として使われています。リアルの世界でコミュニケーションとるのが不得意な方が、ここではスムーズなコミュニケーションをとることができる。新しいメタバースの在り方があるのではないかと考えています」

もうひとつ、木下氏が紹介をした事例は、香川県男木島をメタバースに再現した「TENGUN Ogijimaプロジェクト」です。

木下氏:
「瀬戸内海にある小さな島である男木島の住民と、島を離れた若者や男木島が好きだという人々をメタバースでつなぐ取り組みです」

現地で計測した3D点群データなどの膨大な情報にもとづいて、サイバー空間として再現し、自然に触れながら、人との交流を促進し、島の生活をリアルに体感することができるプロジェクト。IMAGICA GROUPも連携し、足音や蝉の声は現地で集音したデータを使ったり、体験装置を使うと歩く際に床が振動するように作られ、歩いている感覚を体感することができたりと、さまざまな試みを行っています。

木下氏:
「リアル世界とサイバー世界の体験をシームレスにつなげていくために、自律性と多様性のある空間を作っていきたいと考えています。その実現のためにカギを握るのは“技術”なので、リアリティを高めるために、3D点群メディアの処理技術の研究を続けています」

人の機能をデジタル化する「Another Me」の実現のために

NTTが取り組んでいる「Another Me(アナザーミー)」は、まさに人の機能のデジタル化を統合していくプロジェクト。実在する⼈間と同じ知性や⼈格を感じられ、本⼈として社会の中で認知され活動できる、自分の分身のような存在の実現を目指していると言います。

木下氏:
「いわゆるデジタルヒューマンではなく、自分自身をデジタルコピーして何ができるのか、というところで始めたプロジェクトです。まず“本人性”は、外見はもちろん内面的なところも自分のコピーであることで、メタバース空間の中で自立的に動けることを目指しています。さらに一体性があり、Another Meが経験したことを本人にフィードバックし、経験を共有していきます。お互いに成長していくためのプロジェクトで、どのように実現しようか、日々研究を重ねています」

このAnother Meによって何ができるのか、木下氏はシミュレーションなどさまざまな可能性を示します。

木下氏:
「例えば、本人の能力や機会の拡張というところで、仕事を代わってやってもらうなどの機能だけではありません。この仕事をしたらどうなるだろうか、この人と交際したらどうなるか、ここに住んだらどういう人生が訪れるか……。そんなシミュレーションが可能になります。また、一人ひとりのAnother Meを集めることにより、経済傾向など社会自体のシミュレーションもできます。さらには、才能の活用ということで芸能人や芸術家、政治家のような特殊な才能を持っている方の能力を引き出すことができないか、難病の方のサポートや、社交不安障害や認知症などの方の症状緩和ができないかなど、現在研究を重ねています」

このほか、短時間の日本語の音声から英語の音声を合成する技術の紹介など、事例とともにさまざまな研究が進んでいることを木下氏が発表しました。

ヒューマニティを軸に活動するために

冒頭で、ヒューマニティを取り戻すテクノロジーの研究開発に重きを置いていると話した木下氏。多様性にあふれる世界で大切にしたいヒューマニティを、技術だけでなくデザインやアートなどの力を使って解決方法を導き出すために、プロジェクトを推進していると言います。セッションでは、現在動いている5つのプロジェクトについて映像での紹介もありました。

木下氏:
「メタバースが人の困りごとを解決するとき、その人の体やマインドを変えるのはアプローチのひとつです。環境を変えるだけで、その人が抱えている問題がなくなることもあります。可能性を追求していくと面白いことがあるのかもしれないと思い、これからも研究を続けていきます」

最後に諸石からのメッセージがありました。

諸石:
「ありがとうございました。今回、多彩なプロジェクトをご紹介いただきました。今回のセッションを通して、NTTさんが人を中心に社会課題の解決や新しい未来を創出する多彩な取り組みをされていることに改めて気づかされました。 IMAGICA GROUPは、新しい未来や時代を作ろうと、さまざまなパートーナーとのコラボレーションやクリエーションを行っています。今後もさらなる連携をさせていただきながら、新しいチャレンジに取り組み、豊かな社会の実現に向けて、貢献をしてまいりたいと思います」

● 2022年12月8日、NTTとIMAGICA GROUPは「IOWN時代におけるリアル・サイバー融合空間の表現・演出技法に関する総合的な共同検討に着手」として共同リリースを発信いたしました。
https://www.imagicagroup.co.jp/news/2022/2022120802

NTTの先進技術にIMAGICA GROUPのクリエイティブとテクノロジーとを掛け合わせることで、これまで推進してきた従来の映像制作・提供の分野に限らず、新しいリアルとサイバーが融合、共生する空間を創出し、新たなメディア体験やコミュニケーションの実現を目的としています。
また、大阪・関西万博など、より広くその価値を体験いただけるフィールドや機会を検討し、IOWN時代の豊かな社会の具現化に貢献してまいります。

※IOWN(アイオン)とは、NTTが2030年ごろの実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」です。光を中心とした革新的技術を活用して、高速大容量通信基盤を実現させ豊かな社会の創造を目指しています。これまでのインフラの限界を超えた膨大な計算リソース等を提供可能な、ネットワーク・情報処理基盤を構築します。

PROFILE

登壇者プロフィール

NTT人間情報研究所 所長
木下 真吾(きのした しんご)氏
NTT人間情報研究所所長、大阪芸術大学客員教授。大阪大学卒、ロンドン大学University College London大学院修了。
これまで、東京オリンピック・パラリンピック、「超歌舞伎2022」など、スポーツ・エンタメ・アート分野におけるICT技術の研究開発に従事。現在、音声・映像メディア処理、自然言語処理、感性処理、サイバネティクスなどヒトのデジタル化にかかわる研究開発を統括。
主な受賞歴は、情報処理学会 最優秀論文賞・研究開発奨励賞、画像電子学会 画像電子技術賞、デジタルサイネージアワード グランプリなど。

IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO
諸石 治之(もろいし はるゆき)
新しいテクノロジーとクリエイティブを融合したコンテンツ・事業のプロデュースやクリエーションを行う。映像と空間を組み合わせた空間演出及び体験創出、プロジェクションマッピング、8Kや12K 高精細メディア、インタラクティブ、XRやメタバースなど、最先端テクノロジーによるエクスペリエンスやコミュニケーションを創出する。
1998年
放送番組制作会社に入社し、8K・大型映像空間の演出や、プロジェクションマッピング、万博や展示会等のプロデュースを手掛ける。
2016年
テレビCM等を手掛ける会社に転じ、エンタテインメントコンテンツやイベントの企画・プロデュースに携わる。
2018年
IMAGICA GROUP で新規事業企画推進担当、グループ連携プロジェクト統括、東京五輪イノベーションスーパーバイザーを歴任。
2020年7月
IMAGICA EEX 代表取締役CEOに就任。

株式会社IMAGICA EEX
https://eex.co.jp/

お問い合わせ:
https://eex.co.jp/contact/

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