右から、P.I.C.S. managementに所属する映像ディレクター、安藤隼人、加藤ヒデジン、ピクスの映像プロデューサー・クリエイティブディレクターの諏澤大助、司会進行はウェザーマップで気象予報士の平野有海が担当しました。

Session 02

「Music Video制作の現在と未来」
セッションレポート

クリエイティブな映像表現を追求し、さまざまな映像コンテンツの企画・制作に携わるIMAGICA GROUPの中でもピクスは、ミュージックビデオを主とした音楽映像作品も多数手がけています。今回は、このミュージックビデオをテーマに、「Music Video制作の現在と未来」についてトークセッションを行いました。登壇したのは、P.I.C.S. managementに所属する映像ディレクター、安藤隼人と加藤ヒデジン、そしてピクスの映像プロデューサー・クリエイティブディレクターの諏澤大助です。ディレクターとプロデューサーの立場から制作の裏側を語りました。

ミュージックビデオとは?

まずは初歩として語られたのは「MVは何のためにあるのか」。諏澤は、「ミュージックビデオは音楽の良さを伝えるためにあるもの」と語ります。

諏澤:
「音楽は耳で聴くもので、良い音楽であっても、音だけでプロモーションをするのは難しく、テレビやWEBなどで“視覚”を用いて伝えていきます。音楽の良さを伝えるために、ミュージックビデオがあるのです。ミュージックビデオは、プロモーションのほかに、CDの特典映像として用いられるなど、活用の範囲が広がっています。ファンの方にCDを買っていただくきっかけになるとともに、話題になった作品をWEBなどで気軽に見ることができます。ミュージックビデオを通して、音楽の良さを伝えることができるのです」

加藤:
「ミュージックビデオは、映像表現の場として“守られている場所”だとすごく感じます。映像をどう表現しようかというところに重きが置かれているため、クリエイターにとっての裁量が大きい場所だと思います」

諏澤:
「そうですね。制作会社や映像制作者側からしても、ミュージックビデオは自由度が高いといいますか、表現の幅が任されています。昔から、楽しく作ることができるコンテンツだと感じています」

安藤:
「以前は、ミュージックビデオはアーティストをきれいに見せる目的が大きかったのですが、今は、多くの人に見てもらいたいという思いで作る傾向にあります。アーティストサイドもそのように変化していますよね」

加藤:
「音楽を際立たせるだけのものから、映像表現としてどのようにしていくか。ミュージックビデオはより一層何かを深められる場所になっています」

映像作品の意図とこだわり

次のトークテーマは「MV制作の意図とこだわり」について。3名が制作したミュージックビデオを見ながら、作品の解説をしていきます。

まず流れたのは加藤ヒデジンが手がけた、the engy『Sleeping on the bedroom floor』。

加藤:
「the engy『Sleeping on the bedroom floor』は、女性の再生の曲です。この“再生”を考えたとき、テーマは再生と逆再生がいいのでは、と思いました。全編、逆再生なのか、再生なのかがわからない映像作品にしようと思い、取り組みました。予算が限られていたので、自分でカメラも回した作品です」

諏澤:
「ヒデジン監督は本当に器用です。予算の話が出ましたが、撮影も編集も全て行える監督です」

続いて流れたのは、安藤隼人の作品。Creepy Nuts の『Lazy Boy』です。

こちらは、広告タイアップのミュージックビデオで、CDジャケットを作る過程のドタバタ劇が描かれています。

安藤:
「ミュージックビデオの企画出しでは、いつも僕なりのフィルターや主観を入れることを大事にしています。僕自身の経験や嬉しかったこと、楽しかったこと、つらかったことなど、ネガティブなことまで落とし込んで企画を作っています。今回はYouTubeで流行っているコンテンツにZoomを組み合わせ、普通とは異なる撮影にもチャレンジしました」

これを受け、「ミュージックビデオ制作は、企画を理解して面白いと思ってくれるアーティストやレーベルのみなさんに巡り合うことがすごく大事な要素です」と諏澤。その点でもミュージックビデオは自由度が高いと話します。

次は諏澤の作品へ。安藤と加藤は映像ディレクターという立場ですが、諏澤は映像プロデューサーという立場。プロデューサーとして携わった、乃木坂46『シンクロニシティ』のミュージックビデオを紹介しました。「ビジュアルインパクトのある場所で、シンプルな世界観でこの曲を踊りたい」というイメージから、作り上げた作品だと話します。

諏澤:
「清楚でシンプルな世界観を表現するために、アイドル作品でよく用いる顔を全面に映す映像を削ぎ落とし、踊りと美しい立体造形が際立つ作品に仕上げました。ミュージックビデオは、さまざまなシチュエーションを盛り込むことがありますが、『シンクロニシティ』はシンプルにワンシチュエーションで魅せることにトライした作品です。世界観や質感を表現するために、35ミリフィルムで撮影しました」

安藤も加藤も、“坂道シリーズ”のミュージックビデオをそれぞれ担当したことがあり、セッションでは、撮影の思い出も多数飛び出しました。

これから求められる監督像とは?

セッションも終盤に差し掛かり、盛り上がったのは「これから求められる監督像」について。

安藤:
「僕は“作った者勝ち”と考えています。自分で手を動かして作っている人は、いい作品を生み出す傾向にあると感じています。考えて手を使って作る人間が、勝つのかなと思います」

加藤:
「今も昔も変わりませんが、世界観を作ることができる人はあがっていくと思います。今までなかった世界観を作り、それが時代に受けたら残っていきますよね。ただ、時代に受けようと思って作ると失敗することは大いにあります。世界観をみずから作り、没入し、なおかつ時代に受け入れられること。それが多分大事なのだろうと思います」

さらに、どんなスタッフが頼りになるか、という話題にも。これは諏澤が安藤と加藤に聞きたい質問だったと明かします。

安藤:
「僕らは作品を成立させなければなりません。フラットに意見してくれたり同じ目線で提案してくれたりするスタッフはいいなと思います。例えば〇〇にロケに行く、と決まった際に現地の情報を調べてくれるのはもちろんですが、その上で「こことここもいい画が撮れそうなのですが、どうですか?」と自分の意見も一緒に提出してくれるような人。一緒に取り組むと、作品のクオリティがグッと上がりますね。そのためにはお互いの“理解度”が必要です。監督が求めているものを考えながら、前向きに取り組める人がいるといいですね」

加藤:
「そうですね。言ってしまえば、理解度は感性。だから、合う人と仕事がしたいです。監督は十人十色なので、スタッフと感性が合うというのは非常に大事だと思っています」

諏澤:
「僕ら制作スタッフ側は、日々監督と同じようにいい作品を作りたいと思い、クライアントやレーベルの方との制約もある中で悩みながらやっています。逆にプロデューサーの立場では、こだわりは持ちつつも柔軟にディスカッションができるスタッフが必要かなと思います。お二人から意見を聞けてよかったです(笑)」

ミュージックビデオ業界の未来

最後のトークテーマは、ミュージックビデオをはじめとする音楽映像作品の未来について。

諏澤:
「メタバースやVR、ボリュメトリックなど、映像表現の幅が広がり、若いクリエイターも増えてきています。一方で、『シンクロニシティ』のお話でもお伝えしましたが、アナログの良さは変わりません。デジタルはもちろん伸びていくと思いますし、企画で勝負することも変わりません。デジタルとアナログのハイブリッドが今後も進んでいくと思います」

加藤:
「ミュージックビデオは変わってほしくないなと思います。どこまで行っても表現の場であり、表現が守られている場だと思います。音楽を映像化するっていうことは守りつつ、YouTubeだけではない展開が必要だと感じます。変わらないでほしい部分と変わっていかなければならない部分があるのではないでしょうか」

安藤:
「僕個人としては、作品に個性や個人のアウトプットが出てくると、もっと面白くなるだろうと感じます。クラフトマンシップを持ってやっていきたいですね」

ミュージックビデオをテーマに語った本セッション。ピクスは、ミュージックビデオ以外にも、TVやWEBなどで流れるCMや企業のブランディング、企業VPやプロジェクションマッピングをはじめとした屋外広告(OOH)など、あらゆる映像作品の制作をしています。公式サイトにはこれまでの作品が掲載され、安藤や加藤、諏澤の手掛けた作品も見ることが可能です。クリエイター陣の作品や才能を見て感じてみてください。

● P.I.C.S.の作品実績

株式会社ピクス
https://www.pics.tokyo/works/

お問い合わせ:
https://www.pics.tokyo/contact/

PROFILE

登壇者プロフィール

安藤 隼人(あんどう はやと)
カリフォルニア州のDe Anza College Film アニメーションコースにてCG/アニメーションを学び、2005年、株式会社ピクス入社。2016年よりフリーとなり、P.I.C.S. management所属。CM、MV、インスタレーションなど媒体を問わず活動。企画からの参加も多数。
実写とCGの組み合わせを駆使したダイナミックなカメラワークなど、映像ギミックを効果的に採用した演出を得意としています。

加藤 ヒデジン(かとう ひでじん)
大阪芸術大学映像学科卒。在学中に手がけた長編映画がハンブルク日本映画祭に正式出品。卒業後は映像制作会社でディレクターとして活動したのち、独立。現在P.I.C.S. management所属。
映像のプランニングや構成力に加え、ミニマルなワンビジュアルの強い画作りを得意としています。リアルとファンタジーとの境界を曖昧に落とし込む、現実が拡張されたような表現は特に魅力的であり、国内外で高い評価を得ています。

諏澤 大助(すざわ だいすけ)
1984年生まれ。福井県敦賀市出身。
2012年に東京駅丸の内駅舎で行われ大きな話題を呼んだ 「TOKYO STATION VISION」で映像制作に携わったのをきっかけに、プロジェクションマッピングをはじめとする空間映像のコンテンツプロデュースを多数手がけています。
OOH、CM、Music Video、Live、Broadcastなどジャンルを問わず、プロデュース領域は多岐にわたります。

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